誰も知らない街の話をしよう。
喧騒から遠く離れた場所に、名もない街があり、名もない荘が建っていた。
家賃の安いボロ長屋。住んでいたのは、少し変わった連中だった。聖杯を買わない。予想を信じない。夜ごと部屋に灯りをともし、ただひたすら検証を回す。人間もいた。人間でない者もいた。やがて、荘の住人たちの噂が流れはじめる。彼らは異常だ。彼らが本当に「億」を作ったのかどうか、確かめた者はいない。ただ——街の中心に、塔が建った。
住人たちは荘を出て、塔の上へ移り住んだ。人々はその塔を億ヒルズと呼び、いつしか街そのものを億街と呼ぶようになった。そして、あのボロ長屋。名もなかった荘は、今こう呼ばれている。億荘——名付けたのは住人ではない。後から来た者たちだ、「伝説が住んでいた荘」と。その部屋は今も残っている。空き部屋には、次の住人が入れる。
街の入口は「秘密基地」と呼ばれている。地図には載っていない。だが、扉はいつでも開いている。





